遺産分割の協議をまとめるために!申立てや分割方法を紹介
この記事の目次
多種多様な相続財産を法定相続分に合わせてどう分けるかの話し合い
ひと口に相続といっても、相続財産には不動産、美術品、貴金属など多様なものが含まれています。現金なら分けるのは簡単ですが、ものや株式のように価格変動があるものを平等に分けるのは至難の業。加えて法定相続分はあくまでも目安。
故人との関係を強調し、「遺産をもっとよこせ」と主張する人が出てくることもあります。
故人が遺言で具体的な分け方を指示している場合は、それに従いますが、遺言が無い場合は、相続人全員でどう分けるか話し合います。これが「遺産分割協議」です。
相続人が1人でも欠けた場合は、協議は無効になります。しかし、全員が1カ所に集まって話し合う必要はありません。書面で意見を伝えたり、後日決定事項の了承をとったり、代理人を行かせたりなどのかかわり方でも、全員参加したと見なされます。
相続人のなかに未成年者や行方不明者、認知症などの人がいることがあります。これらのケースでは、親権者や未成年後見人、不在者財産管理人、成年後見人などが本人に代わって協議に参加します。
遺産分割協議とは?
不在者財産管理人
相続人のなかに行方不明の人がいて、遺産分割協議ができない場合があります。この場合は、相続人が利害関係人として家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てることができます。不在者財産管理人は、不在者の財産を管理・保存する者として、弁護士や司法書士などから選任されます。相続人は、選ばれた不在者財産管理人と遺産分割協議を行っていきます。ただし、遺産分割を成立させるためには、家庭裁判所の許可が必要となります。
成年後見人
成年後見人は、判断能力の不十分な成年者(認知症高齢者、知的障がい者等が該当する)を保護し、支援していきます。主な役割は本人に代わって財産を管理したり、施設と入所契約を結んだりすることです。遺産分割協議においても、本人に不利にならないように本人に代わって協議を行います。そして、定期的に家庭裁判所に収支等の報 告を行います。成年後見制度を利用するためには、本人または4親 等以内の親族が家庭裁判所に申立を行います。
遺産の大部分が故人の自宅というケース
3人で平等に分ける方法を考えてみよう
遺産相続でもっともトラブルが起こりやすいのが、故人の自宅。分けるのが難しいからです。
家を複数人で分けるための手法はいくつかあります。
1つは、「代償分割」。国税庁の路線価図などを参考に家の評価額を割り出す方法です。正確に評価額を出したい場合は、不動産鑑定士などのプロに頼みます。
仮に評価額が6,000万円なら、1人が家を相続し、残りの2人は家の代わりに現金2,000万円ずつを受け取ります。相続した人が高額な現金を用意する必要があります。
2つめは「換価分割」で、家を売却して現金化する方法です。現金なので相続人同士できっちり分けられますが、実家を売るのは抵抗がある人もいるでしょう。
その他、法定相続分に合わせて家を共同で所有する「共有分割」や、ムリに分けない「現物分割」という方法がありますが、どれも一長一短があります。自分たちの状況に合った方法を選びましょう。
家を分割するための4つの方法
献身的な介護で故人の介護費用を節約できた
介護した人は遺産を多めにもらえるのか
老人ホームへの入居、家の改築、医療費、日常的な介護費用……。多くの場合、介護には、多額の費用がかかります。
しかし、相続人の1人が懸命に介護することで、介護度の進行を遅らせることは可能でしょう。結果、たとえば老人ホームに入居せずに済めば、それは故人の財産の維持、または増加に貢献したといえます。
介護に限らず、故人の事業を手伝ったなど、財産の維持や増加に貢献した人は、法定相続より貢献の度合いだけ相続分を増やす権利があります。この増やしたぶんを「寄与分(きよぶん)」といいます。
寄与分の計算方法は決まっていません。「財産の増加に貢献する介護とそうでない介護の違い」や「介護によって具体的にいくらの財産の維持・増加に貢献したのか」などを数値化するのは困難ですし、本人の主張の仕方によっても印象は変わります。
遺産分割協議でまとまらなければ、家庭裁判所に申立をして、寄与分を決めてもらう方法があります。
苦労に報いる「寄与分」とは?
きょうだいの1人が多額の生前贈与を受けていた
このぶんは遺産相続にどう影響するのか
親が息子夫婦との旅行代や外食代を常に負担したり、家の改築費用を出したりすることは珍しくありません。
また、独り立ちする子がいる一方、実家で親のお金で暮らしている子もいます。一人っ子であれば問題になりませんが、きょうだいがいる場合は、1人の子どもばかりにお金を使えば不公平感が生じます。
それを是正するのが「特別受益制度(とくべつじゅえきせいど)」です。具体的には、生前に受け取った額を生前贈与として計算して、相続財産に加えます。これを「特別受益の持戻し」といいます。 すべてを足して、改めて、各相続人の相続分を計算します。
もっとも、何が生前贈与に当たるのかは、人によって判断はまちまち。
子どもよりも親のほうが裕福であれば旅行代や孫の学費を払ってくれるのは当然と考えている人もいれば、それは生前贈与だと考える人もいます。どう捉えるかは、遺産分割協議で 話し合って決めますが、意見がまとまらなかったときには家庭裁判所に調停を申し立てる方法があります。
生前贈与の不公平を正す「特別受益制度」とは?
遺産をどう分けるかの話がまとまったら「遺産分割協議書」を作成する
相続人全員による遺産分割協議がまとまったら、協議の内容をまとめた「遺産分割協議書」の作成に入ります。決まった用紙はなく、書き方は自由です。書式の指定も特になく、縦書きでも横書きでも、複数枚にわたっても構いません。
記載すべき内容は次の3つ。「協議の内容」「具体的な財産の中身と相続した人」「相続人全員の氏名・住所・捺印」です。加えて全員の印鑑証明書も必要です。協議書が 複数枚に及んだときには、紙と紙の境目に割印が必要です。
作成した遺産分割協議書は、不動産の名義変更、金融機関での相続手続、相続税の申告などで使用していきます。銀行口座の凍結解除など各種手続で遺産分割協議書の提出が求められる機会は少なくありません。
遺産分割協議書には相続人全員の署名・実印の押印などが必要なので、足りなくなったからといって、また改めて署名・実印の押印などを相続人のあいだで行うのは大変な手間です。作成の際に、最低でも相続人全員ぶんにプラス2通程度はつくっておきましょう。
遺産分割協議書の要素
遺産分割協議書を作成する際に、必要な要素は下記になります。
故人の所有財産をすべて洗い出し、相続人のあいだで分けるのが目的です。
1.被相続人(故人)の情報
必要なのは「本籍地・最後の住所・氏名」。まずは故人を特定し、明らかにすることから始めます
2.序文
「●年(和暦が一般的)●月●日、上記被相続人が死亡したことにより開始した相続について、共同相続人の全員において、被相続人の相続財産につき次のとおり遺産分割の協議をして合意に至った」
3.内容
土地、建物、現金、有価証券、動産、その他財産などを箇条書きにし、各相続人が何をどれだけ相続するかを、箇条書きにする。後日発見された遺産は誰が相続するかについてもつまびらかにしておく
4.署名・押印
相続人全員が自筆で署名し、押印する。作成日の日付を記入する
遺産分割協議でもめたら家庭裁判所に調停を申し立てる
仲の良かった家族や親戚でも多少はおもしろくない思いをすることがあるのが遺産分割協議。さらに寄与分、特別受益、非嫡出子の登場などが加われば、もめないわけはありません。相続人の配偶者が口を出してややこしくなることもあります。
遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停でまとまらない場合は、裁判所の判断を仰ぐ審判の手続を取ることもできます。
審判が確定すると、結果に基づいて、必要があれば強制執行なども行われます。ただし、確定結果が不服であれば、2週間以内なら上告できます。
いうまでもなく、争っている限り遺産分割協議書は作成できないので、各種手続もできません。たとえば、金融機関での相続手続ができず、立て替えている葬儀費の精算ができないかもしれません。税金関係は納税が遅くなれば追徴が発生します。
多少の不満があってもお互い譲り合い、一刻も早い解決を目指すべきでしょう。それが故人に対する供養にもなるはずです。
遺産分割協議がまとまらない場合は「遺産分割調停」
遺産分割調停の申立て
相続人の1人が住んでいる住所地の家庭裁判所に申立てる
↓
遺産分割調停
管轄の家庭裁判所で、裁判官と調停委員が同席のもと、当事者同士が話し合いを行う
↓ ※不調なら
審判
調停が成立しなければ、裁判官が審判をする
↓
家庭裁判所による決定
遺産分割の審判では、裁判官が、遺産分割の方法を決めてしまう
↓ ※不服なら
遺産分割審判の確定・不服申立て
「遺産分割調停」を申立てするには?
申立て先 | 相続人(相手方)のうちの1 人の住所地の家庭裁判所 |
---|---|
申立てできる人 | 相続人、包括受遺者など |
費用 | 被相続人1 人につき1,200 円ぶん(収入印紙)+連絡用の郵便切手 |
必要な書類 | 申立書、故人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除 籍,改製原戸籍)謄本、 相続人全員の戸籍謄本、相続人 全員の住民票または戸籍附票、遺産に関する証明書(不 動産登記事項証明書及び固定資産評価証明書、預貯金通 帳の写しまたは残高証明書,有価証券写し等) ※詳しくは、申立てを行う家庭裁判所にお尋ねください |
■参照元
わかりやすい図解版
身内が亡くなったあとの「手続」と「相続」
---------------------------------
2016年5月10日 第1刷発行
2018年2月20日 第6刷発行
監修者:岡信太郎(司法書士)、木村健一郎(税理士)、岡本圭史(社会保険労務士)
発行者:押鐘太陽
発行所:株式会社三笠書房
---------------------------------