婚姻夫婦とかわらない?事実婚の場合の相続関係は
この記事の目次
事実婚の親の一方が亡くなった場合
ポイント:最近増えている、婚姻届を出していないけれど実質夫婦の「事実婚」。その場合の相続関係?
相続権こそないけれど
実質的には夫婦として生活しているのに、役所には婚姻届けを出していないパートナー関係があります。子から見れば事実婚の両親ということになります。
配偶者を亡くしたあと、独身男女で交際が進む元気な高齢者が少なくありませんから、子どもとしては親がどんな相手と交際し、相続はどうなるのか関心があるところです。
もっとも法律上の夫婦でないため、配偶者としての相続権はありません。法定相続人は配偶者が存在しないという前提で決定されます。
それでも、夫婦の一方が死亡したのと同じに取り扱われる領域があります。社会保険などは典型的なもので、これは実際の生活関係に即した扱いが強く要請されるためです。
詳しくは下記のとおりですが、現在では婚姻夫婦とほとんどかわらない権利があることがわかります。
特別縁故者の財産分与請求
相続人がいない場合についてもひと言触れておきます。
事実婚の夫婦関係では相続権はありませんが、相続人がいない場合など、その他一定の条件があるならば、「特別縁故者」からの財産分与請求という手法により、遺産の全部または一部を引き継ぐことができる場合があります。
この制度を利用するためには家庭裁判所に対して相続財産管理人の選任を求めることが必要です。手続きは面倒で時間もかかりますが、試みる価値はあります。
事実婚の相続のしかた
婚姻夫婦と同じ取扱いをされる場面
(1)社会保険:第3号被保険者として認められる。
(2)遺族厚生年金:夫婦同然の生活実体があれば受給権が認められる。
(3)労災の受給権:労働者災害補償保険法16条の2に基づき受給権が認められる。
(4)労働基準法79条に基づく遺族補償:受給権が認められる。
相続権
配偶者としての相続権は存在しないとするのが裁判所の一貫した姿勢。一方の死亡を「内縁の解消」として、財産分与請求権を行使して遺産をもらうことも現在のところ困難。
ただし、相続人がいない場合には、「特別縁故者」として財産の一部または全部の分与を受けられる場合がある。相続財産管理人の選任を家庭裁判所に求めるところから手続きを開始し、財産分与の申し立てをおこなう。
残された内縁配偶者の生活に配慮して、生前に贈与したり、遺言で財産を遺贈しておくことがのぞましい。
借家に住んでいる場合の借家権
借家に住んでいる内縁夫婦の一方が死亡した場合、相続人がいなければ、内縁配偶者が借家人としての権利義務を承継できる。相続人がいる場合には、相続人が借家人の権利義務を承継するので内縁配偶者が相続することはできない。
その代わり裁判所は、相続人が相続した借家権を内縁配偶者が援用することにより居住の権利を主張することを認めている。
持ち家に住んでいた場合
事実婚夫婦が一方の持ち家で生活していた場合、家を所有する側が死亡した場合には、内縁配偶者に相続権がない以上、居住の権利を失う。
ただし、相続人が内縁配偶者に対して明渡請求をすることが権利濫用に当たり許されないとされる場合には、事実上居住権は認められる。
夫婦共同で買った家に住んでいた場合
事実婚夫婦が共同で家屋を購入して生活していた場合は、「一方が死亡した後は、他方が家屋を単独・無償で使用する」 という合意があったものと認められる可能性があり、その場合には内縁配偶者は従前とかわらず単独で使用する権利を相続人に対して主張できる。
ただし、相続人は被相続人の共有持分権を相続するので、相続人からの共有物分割請求があった場合には、内縁配偶者はこれに応じなければならない可能性がある。
■参照元
改訂増補 親の葬儀とその後事典
---------------------------------
平成20年9月30日 旧版第1刷発行
平成29年5月26日 改訂版第1刷発行
著 者:黒澤計男 溝口博敬
発行者:東島俊一
発行所:株式会社法研