グリーフケア~遺された側、遺された人を支える側、それぞれの「喪の仕事」
人は、大切な人を失ったときにはひどい悲しみとショックを受けます。
「老衰で亡くなった。みんなに見守られて最後まで苦しまずに旅立ったし、100歳を超える大往生だった」というような場合でも、ショックと喪失感はあります。
まして、突然の死や犯罪・災害による理不尽な死だった場合、ご家族や友人、周囲の人が受けるショックは一通りではありません。
しかし人は、それでもなんとか生きていくための道を探らなければなりません。その死を受け入れ、昇華し、悼み、回復していかなければなりません。このときにたどる過程と、その過程がうまくいくようにサポートすることを表す「グリーフケア」について解説していきます。
この「グリーフケア」は、「遺された側(近しい人を失った人)」と「遺された人を支える側(友人を亡くした妻を支える夫など)」によって向き合い方が違ってきます。
「グリーフケアとは何か」「遺された側にとってのグリーフケア」「遺された人を支える側にとってのグリーフケア」について取り上げていきます。
大切な人を失ったことを受け入れていくために、そして大切な人を失った大好きな人を支えるために、この記事を役立ててください。
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この記事の目次
グリーフケアとは悲しみを癒すためにサポートすること
グリーフケアとは、ショックに向かい合い、悲しみを受け入れ、昇華し、回復していくための一連の流れと、そのサポートを行うことを指します。
人が死んだとき、その人生の過程において触れ合ってきた人たちのなかに、大小の差はあれどもなんらかのショックをもたらしていくことになります。
若い人が亡くなること、そしてその死が災害や犯罪による理不尽なものであった場合などは、そのショックはさらに大きくなります。
この「グリーフケア」とは、大切な人を失ったショックから立ち直るために取り組むものでもあります。また、「大切な人を失くした人に寄り添い、その立ち直りを支援すること」という意味もあるため、「遺された側を支える人の立場」から語られることもあります。
このため本記事では、「遺された側(非常に深い感情を持って故人に接していた人。故人の友人や遺族など)」と、「遺された人を支える側(直接故人と関わりのあった人の周りにいる人。故人の友人の家族など)」の立場に分けて、それぞれのグリーフケアについて述べていきます。
グリーフとは、「悲しみ」「悲嘆」を表す言葉
グリーフとは、「悲嘆」「非常に深い悲しみ」を表す言葉です。
人の死は、非常に大きな悲しみと衝撃を持って人を打ちのめします。
一言では言い表せないほどの悲しみや慟哭(どうごく)に向き合うこと、そしてそこからの立ち直りを考える「グリーフケア」は、不条理なことが理由で起こるテロや事故によって奪われた命を考え、受け入れていくために必要なものです。
「喪の作業」「喪の仕事」とはグリーフ・ワークを指す
グリーフケアについて調べると、よく「喪の作業」「喪の仕事」という単語が出てきます。
これらの言葉はグリーフケアとほとんど同じ意味で使われています。サイトなどによっては、グリーフケアの和訳文章としてこの2つの言葉を使っていることもあります。
また、グリーフケアは「グリーフ・ワーク」と呼ばれることもあります。それ以外にも、「悲嘆の作業」「モーニング・ワーク」という呼び方が使われる場合もあります。
これらは呼称こそ違いますが、基本的には同じものだと考えてよいでしょう。
この記事では特段の理由がないかぎり、「グリーフケア」という表現を使っていきます。
次の項目からは、「グリーフケア」の中でも、特に「遺された側に起こりうること」についてお話していきます。
【遺された側】大切な人の死に際して起こりうること
ニュースなどで理不尽に人が殺された事件などを見て、心身の体調を壊す人もいます。
それほど、「人の死」というのは、強いストレスを私たちにもたらすものです。
その死が自分にとって近しい人、親しい人であればなおさらです。
遺された側には、さまざまな変化が訪れます。この変化は主に、「精神的な変化」「身体的な変化」「日常生活の変化」の3つに分けられます。どれも正常な変化ではあるものの、好ましくない変化であることもまた確かです。
精神的な変化
故人を思い、故人を慕い、故人に対して思いを馳せる時間が続きます。また、孤独感や寂しさがひどく、それに打ちのめされることもあります。
加えて、「どうして自分は救えなかったのか」「あのときに自分が気付いていたら」などのような気持ちが巻き起こることもあります。そこから、「何もできなかった自分」を攻めて、途方もないほどの無力感にさいなまれることがあります。
また、「怒り」が出てくることもあります。これは繋がりのないもののように見えること、時に攻撃性を持つことから、周囲にとっても遺された当人にとっても理不尽なものであることから忌避されがちなものではありますが、これも、グリーフへの反応として意外なほどによく見られるものです。
犯罪によって命が奪われた場合に、その犯人に対しての痛切で過激な怒りが出てくることはよくあります。医師が適切な治療を施していたか施していなかったかに関わらず、「救ってくれなかった医師」に対する怒りが出てくることもあります。
またそれ以外にも、「どうして自分は気づけなかったのか」として自分自身を対象とした怒りが出てくることもあります。
怒りのなかでもっとも理不尽なのは、「亡くなった故人への怒り」でしょう。「自分が何度も言っていたのに、かたくなに病院に行こうとせず、結果的に症状が悪化して亡くなった」などのような理のある原因ばかりではなく、災害などによって突然命を奪われた場合でも「なぜ自分を置いていってしまったのか」という怒りが巻き起こる可能性があります。
身体的な変化
身体的な変化が見られることもよくあります。これにもいくつかの種類があります。
1.睡眠障害
「うまく眠れない」「なんとか寝ても、すぐに目が覚めてしまう」などのような睡眠障害が出ることがあります。神経が高ぶって何度も目が覚めてしまうこともあります。
2.頭痛やめまい、胃腸が悪くなる、便秘や下痢
「体調不良」というかたちで、ダイレクトに響いてくるものです。睡眠障害や、このような体調不良は、本人も周りも比較的それと気づきやすいのが特徴です。
3.疲労感
葬儀や葬式告別式を行うときには気疲れも起きるものですが、それ以外のときでも疲労感がとれない……などのようなケースもあります。また、倦怠感が強く出ることもあります。睡眠時間は確保していても、疲労が抜けないこともあります。
4.食欲の異常
「悲しいときには食欲が落ちるものだ」と考えている人は多いものです。実際、悲嘆のなかにある状態では、食欲がわかず体重がどんどん減っていってしまうことはよくあります。
ただ、逆に過食に走るケースもあります。
日常生活の変化
日常生活にも、変化が起きます。死別を原因としてうつ病が引き起こされることは、決して珍しいことではありません。
また、「どうして彼女が死ななければならなかったのか」などの問いを自身にも周りにも繰り返しぶつけることがあります。
ぼうっとして仕事やプライベートに身が入らなかったり、しばらく経ってからも涙がぼろぼろと流れてきたりすることもあります。
その一方で、異常に意欲的になり、落ち着きを欠く場合もあります。故人の思い出のものを処分してしまいたいと考えたり、故人の死についてふれるものを見たくないと思ったりするのも、よくある変化です。
死に向かい合う過程や変化は人それぞれです。これらの変化も、万人に、すべての症状が起きるというわけではありません。
ただ、このような変化が起こるということを知っているだけで、「異常になってしまうのは自分だけじゃない」と思え、少し冷静でいられるようになります。
悲しみや辛さを口にすることは悪いことではない
遺された側の立場になった人は、「自分がいつまでも悲しんでいては、周囲の人に迷惑をかけてしまう」「悲しいのは自分だけではない」「悲しみを振りまくことは、よくないことだ」と考えてしまいがちです。
余裕のないなかであっても、周りの人の気持ちを第一に考え、悲しみや辛さを口にしない人もいます。
その気持ちが自分自身を立ち直らせることの役に立つ人も、もちろんいます。自分が「遺された側」であっても、ほかの「遺された側」を支えることで、自分自身の無力感を解消し、死に向き合っていける人もいるからです。
ただ、「本当はだれかに話したいのに、周りに気を使って話せない」「話すべきではない」と考えているのであれば、その必要はありません。悲しみや辛さを口にすることは決して悪いことではありませんし、それを聞いた人がその悲しみや辛さをどう消化していくかは、話した人が責任を負うべきことでもないからです。
では、遺された側が人の死を受け入れていくためにはどのような方法があるのでしょうか。
【遺された側】グリーフケアは主に4つの方法で行う
ここからは、実際に行われている「グリーフケアのやり方」について見ていきます。
これは主に、4つの方法があります。
- 周囲の人に話す・語り合う
- 文字や絵で故人のことを吐き出す
- 葬送の儀礼を行う
- 手元の遺骨を収蔵する
ひとつずつ見ていきましょう。
周囲の人に話す・語り合う
「周囲の人に話すこと」「辛さを打ち明けること」は、グリーフケアにおいて非常に大きな意味を持ちます。ここでは「辛さを打ち明けること」としていますが、故人をおとしめる物でない限り話す内容に制限はありません。
楽しかった思い出、好きだったところなどの明るい話題を選んでももちろん構いません。
人に聞いてもらうことによって楽になれる部分はあります。
遺された側~だれに話すか
「話すことは大切である」としましたが、だれに話せばよいのでしょうか。
真っ先に思い浮かぶのが、「共通の友人や親せき」「故人とは直接関わりのない、家族や友人」などでしょう。
前者ならば故人の思い出話を話すことができて辛い思いも共有できますし、後者ならば自分の気持ちを気兼ねなく話すことができます。
また、場合によっては医師に相談した方がよい場合もあります。うつ病の生涯罹患率(りかんりつ)は15人に1人とも、6~7人に1人ともいわれています。心療内科の扉を叩くことは、もはや珍しいことでも引け目を感じることでもありません。
医師が相手の場合は、自分の抱えている感情も全て吐き出すことができます。例えば、「理不尽であることはわかっているが、どうしても抑えがたい感情(先に亡くなった故人への怒りや、犯罪・災害への処罰感情など)」も相談できるでしょう。
また、交通事故や犯罪、自殺によって命が失われた場合は、同じ経験をした人たちで話し合うグループもあります。
出典:
・厚生労働省「うつ病を知っていますか?」
・表参道ソフィアクリニック「うつ病は何人に1人がなる?」
文字や絵で故人のことを吐き出す
「文字や絵で、故人のことを吐き出す作業」もまた、グリーフケアにおいて大きな意味を持ちます。
文字や絵にすると故人のことを思い出してしまって余計に辛くなる……と思う人もいますが、自分の心を整理していくためには非常に有用です。
文字や絵は、発表しても構いませんし、発表しなくても構いません。また、処分してしまっても構いません。上手さ・下手さに囚われる必要もありません。
葬送の儀礼を行う
「葬送の儀礼」はもっとも多くの人がイメージする「グリーフ・ワーク」なのではないでしょうか。通夜や葬式告別式を行い、故人を見送るのです。
これに宗教的な意味を見出すのかどうかは、故人とご家族、そして自分自身の気持ちによります。また、通夜や葬式告別式だけではなく、献花台に花を捧げたり、自分の心のなかで手を合わせたりすることもまた、ひとつの葬送儀礼といえます。
葬送儀礼は、故人を慰めるためのものであると同時に、遺された人が「故人のためにできることをやった」「故人をきちんと見送れた」と思うためのものでもあります。
手元のご遺骨を収蔵する
日本では特段の理由がない限り、火葬というかたちをとります。そのため、ご遺骨が手元に残ることになります。
このご遺骨をいつ納骨するかには、法律的な区切りはありません。しかし一般的に、四十九日法要や一周忌のタイミングで行われます。
これもまた、葬送儀礼と同じように、ひとつの「区切り」をつけるための行いでもあります。日常に戻っていくために、ご遺骨をお墓に入れてその眠りが安らかであるようにと祈るのです。
しかし納骨のタイミングに目安があるからといえ、「ご遺骨がいつまでも手元にあったら浮かばれない」などということはありません。あえてご遺骨を手元に残すことで、いつまでも故人を身近に感じ、安らかな気持ちになれる人もいます。まだ収骨できる状態ではないのなら、無理をする必要もありません。
このように、「自分の気持ちと現実に向き合っていくための方法」を少しでも知っておくことで、自分の心をケアすることがやりやすくなります。
しかし逆に、自分自身を傷つけ、追い詰める選択肢もあります。それについても見ていきましょう。
【遺された側】避けるべきこと、気を付けること
自身が「遺された側」になったときは、入ってくる情報を適宜整理して、「情報の過剰摂取」に注意する必要があります。
どれだけ大切だった人であっても(あるいは非常に大切な人だったからこそ)、その人の思い出の品などに接することが苦しくなることもあるでしょう。その人のことを思い出してどうしてもつらい……という場合は、無理に遺品などには触らず、しばらく時間を置くことが重要です。
また、事故や犯罪、災害などによって亡くなった場合は、その情報から少し離れることも重要です。気になって調べてしまう気持ちも当然ありますが、過剰に情報を摂取してしまうと非常につらくなることがあります。
特にそれを扱ったテレビのニュースなどは、自分では情報の取捨選択ができず、フィルターもかけにくいので注意が必要です。
また、お酒に逃げるのもよくありません。
悲しいときにお酒を飲むことを習慣づけてしまうと、アルコール依存症などにつながりかねないからです。
「どうしても眠れない」などの場合は、心療内科に通い、適切な薬の処方を受けましょう。心の薬や睡眠の薬に対して否定的な見方をする人もいますが、アルコールなどに頼るよりは健全です。
【遺された側】喪失の受け入れ方は人それぞれ異なる
遺された側になった人に特に知っておいてほしいのは、「受け入れ方は人によって異なる」ということです。
たとえば、ご遺骨を収めることは、たしかにグリーフケアの第一段階となるものです。しかしそれでは心が落ち着かなくなるという人は、いつまでも側に置いておいても構いません。
人に話して助けを求めることは心を癒すうえで非常に重要なステップにはなりますが、家族に対して話すことで余計に心に負担がかかるのであれば無理に話す必要はありません。
事件や事故の現場にお花を持っていったり葬儀で手を合わせたりすることは心の区切りをつけるために必要なことではありますが、それによって余計に心がつらくなるようであれば、時間をおいてから尋ねるという方法をとることもできます。
グリーフケアにおいては、「こうすればよい」「こうするのが基本」というステップややり方は、たしかにあります。しかし人の死の受け入れ方は、一人ひとり違います。同じ立場にあっても、受け入れ方が異なるのは当然です。
グリーフケアの工程を知っておくことはとても意味のあることではありますが、「絶対にこうしなければならない」「こうしないと故人が浮かばれない」と考える必要はありません。
死に対する多様性を認めることは、グリーフケアにおいて非常に重要です。
今までは「遺された側」の立場からグリーフケアを見てきました。
次の項目からは「遺された側の家族や関係者(たとえば、「友達を失くした妻」を持つ夫など)」の立場から、グリーフケアについて見ていきましょう。
【支える側】グリーフケアが日本で広まった経緯
グリーフ・グリーフケアの概念は、2005年の4月から特に広まりを見せました。今でも思い出す人の多いであろうJR西日本福知山線脱線事故がそのきっかけになったといわれています。
107名の尊い人命が失われ、562人が負傷した大きな事故でしたが、この理不尽な突然の死に際して、ご遺族やご友人、居合わせた人の間で、複雑で深い悲しみが生じました。
そのような状況を踏まえ、2009年に「グリーフケア研究所」が設立されました。
しかし、グリーフケアの概念が考え出されたのは、それよりもずっと前のことです。精神医学の進展に貢献したフロイトによって提唱され始めました。※現在から見ると問題のある学説にせよ
彼は、「メランコリー」と「悲哀」の2つに分けて、喪への向き合い方をとりあげました。特に前者は、現在では「うつ病」とされています。
フロイトによって、「人がだれかを失ったときには、故人への愛着や愛情だけでなく、後悔や憎しみも出てくる。そのアンビバレントさを乗り越えていくことを、グリーフケアとする」としました。
その後、ボウルビィによって、さらにグリーフケア(喪の作業)の段階が細分化されていくことになります。
「回復したから大丈夫」と思わないで~後追い自殺は少し回復したときにも起こる
「大切な人を失った人」を支える立場にある人にまず知っておいてほしいのは、「グリーフケアはすぐに終わるものではない」ということです。
大切な人を亡くしたときに現実感が持てずにぼうっとしている家族が心配で、積極的にサポートをする人は多いことでしょう。時間の経過とともにその人が少しずつ笑うようになり、徐々に元気を取り戻し、日常生活に戻っていったとします。
このとき、「支える側」の人は、「もう立ち直ったのだ」と安心してしまいがちです。訃報を聞いた直後は後追い自殺をするのではないかと不安に思っていた人も、ある程度ほっとしてしまうでしょう。
しかし、そのような回復期に、後追い自殺に走る人もいます。グリーフケアには完全な「終わり」を見出すことは難しく、長く続いていくものです。支える側にも限界はありますが、「笑えるようになったから大丈夫」などと考えず、長期的に向き合っていくことが重要です。
また、他にも心構えをしておくとよいことがあります。
【支える側】支える側がしておくといい心構え
「大切な人を亡くした人」を支える立場の人は、以下の4つを覚えておく必要があります。
- 悲しみは長く続くということを知る
- 悲しみは一通りではないことを知る
- できる限り話を聞く
- 必要に応じて専門医にかかるようにと案内する
ひとつずつ見ていきましょう。
悲しみは長く続くということを知る
個々人で差はありますが、グリーフケアは長く続くものだと考えてください。「1週間経ったからもう大丈夫」「来月には元気になっているはず」などと言えるものではありません。
もちろん短期間で日常に戻ることのできる人もいますが、数年単位で悩み続ける人もいます。
「もう亡くなってから随分経つんだから、立ち直らなきゃ」
「いつまでもくよくよしていてはダメ」
などのような言葉は、悩んでいる人をさらに追い詰めることもあります。
グリーフケアにかかる時間は非常に長いこともあり、また個人差もあるのだということも忘れてはなりません。
悲しみは一通りではないことを知る
「大切な人が亡くなったときの反応」と聞くと、多くの人は「泣きくれる」「食欲が落ちる」「反応が鈍くなり、快活さがなくなる」などを思い浮かべることでしょう。これも、たしかによくある反応です。
しかし実際の反応はこれに留まりません。「普通に笑いもするし会話もするが、夜中に眠れずいつまでも泣いている」「怒りっぽくなって、故人に怒りをぶつけている」「普段からは考えられないくらいの過食をする」「お風呂に入れなくなる」「ゲームばかりするようになっている」「読書ばかりをしたりするようになっている」などのような行動が見られることもあります。
「怒り」はグリーフケアの心理段階で意外なほどによく見られるものです。また、食事(食欲)の異常は、「食べない」だけでなく「食べ過ぎる」というかたちで出ることもあります。
「ゲームや本を読んだり仕事をしたりしているときは何も考えなくても済む。でも、何も目にすることのないお風呂などは、故人のことを思い出して苦しい」ということで、ゲームや本に走り、お風呂に入れなくなる場合などもあります。
ステレオタイプの反応しか予想していない場合、このような行動をとられると非常に驚きますし、場合によっては無礼に感じられるかもしれません。
しかし人の死に対する反応はそれぞれですし、どれが間違っているというものでもありません。
「悲しみ方は一通りではないこと」を理解することは、サポートしていくうえで非常に重要です。
できるかぎり話を聞く
大切な人を失った人は、悲しみのなかにいます。「話すだけで楽になれる」という人は多いものですし、人に心を打ち明けていくのもグリーフケアの過程のうちのひとつです。
できるかぎり、側に寄り添って話を聞いてあげてください。
話はループしてしまったり、怒りや強い言葉が出たりするかもしれません。ただそれも、悲嘆に沈む人の正常な心の動きなのだと理解し、可能なかぎり耳を傾けてください。
必要に応じて専門医にかかるようにと案内をする
「話を聞いてあげること」は、悲嘆の底にいる人にとっての救いとなります。ただ、支える側の許容量も無限ではありません。支える側の方が、「聞くのがつらい」「悲しみを聞くことはできるが、八つ当たりのようなことをされるのがしんどくなってきた」と思うときもあるでしょう。
支えきるのが難しいと考えた場合は、医師の力を借りるのが最善です。心療内科などへの受信を勧めるようにしてください。また、グループワークの案内をするのもよいものです。「第三者」である医師、知らない相手だからこそできる支え方もあります。
また、心身の異常が極めてひどく、日常生活がまったく送れない状態であるのなら、加療対象となることもあります。医師や薬に頼ることは決して悪いことではありません。
遺された側と、遺された人を支える側、両者にとって、第三者であり専門的な知識を持つ医師が助けになることを覚えておいてください。
【支える側】グリーフケアを行うときの注意点
支える側としては、遺された側に早く元気になってもらいたいと考えます。また前向きに人生を歩んでいってほしいと願うでしょう。このような善意から、さまざまな言葉をかけます。ただ、なかにはあまりよろしくない影響を及ぼす言葉や働きかけもあります。
むやみに前向きな言葉をかけない
「そんなことでは亡くなった人も浮かばれないよ」「前を向いて歩こう」などのような言葉は、ついかけたくなるものです。また、かける側には悪意もありません。
ただこれは、かけられた方の心を追い詰めることになりかねない言葉です。立ち直れないから悩んでいるわけですから、逆効果になったり負担になったりすることがあります。
「悲しみがあるのは当たり前だ」と考えて、むやみに前向きな言葉をかけるのは避けましょう。また、強い言葉での励ましも逆効果となることが多いので慎むべきです。
寄り添うことが何よりも大切
「大切な人を亡くした人の気持ち」は、当人でなければわかりません。同じ立場にある人同士(故人の友人同士)などの場合は「立場が同じであること」から話しあえることも多いのですが、「遺された側」と「遺された人を支える側」では、どうしても見え方や受け止め方に違いがみられます。
そのため、「分かるよ」「しょうがない」「気持ちは理解できるけど」のような表現はしない方がよいでしょう。支える側が過去に大切な人を失っていたとしても、「人を亡くしたときに抱く感情」というのは個々人で違うものです。
安易に分かったようなふりをすることはやめましょう。
考えを押し付けない
人にはそれぞれ宗教観がありますし、死からの立ち直りの方法も異なります。そのため、自分にとって良かったと思うことを、一方的に相手に伝えることも控えるべきです。これは、まだ死を受け入れきれていない人にとって大きな負担となります。
特に、このときに自分の信じる宗教を教えるなどすると、「人の悲しみにつけこんで宗教勧誘をしてくる人」と思われてしまいます。たとえ100パーセント善意からの言葉であっても、控えるべきです。
求められればアドバイスをすることは構いませんが、自分の気持ちを押し付けることはやめましょう。
後々の関係にまで日々を入れてしまいかねません。
【支える側】グリーフケアが必要かどうかの判断
死によるお別れは、多かれ少なかれ、周囲の人に対して衝撃をもたらすものです。
ただ、「大変な高齢で、心配はしているが覚悟はできている。苦しまずにみんなに見守られて息を引き取り、葬儀のときも笑顔で見送ることができた」という亡くなり方と、「朝元気で仕事に行ったのに、通勤途中で交通事故にあって亡くなった。犯人はまだ捕まっていない」という亡くなり方では、受ける衝撃の強さも違います。
人にとって感じ方は違いますが、前者の場合は比較的受け入れていきやすいでしょう。しかし後者の場合は、悲しみも憎しみも長く続くことが予想されます。
「グリーフケアは、ある人にとっては必要で、ある人にとっては不要」といえるものではありません。しかし不条理な死や突然の死、年若い人の死にあたった場合などは、特にグリーフケアの重要性が増してくるでしょう。
【支える側】喪失から発生する人の心情過程(プロセス)
グリーフケアは、基本的には
- ショック段階
- 怒り
- 引きこもり
- 回復期
- 再起
の過程をたどります。
3段階まで進んだかと思えば2段階に少し戻った……などのようなケースもみられますが、これを把握しておくことで、「現在この人はどのような状態にあるのか、自分がとるべきやり方は何なのか」を見極めやすくなります。
詳しく解説していきましょう。
1.ショック段階
「大切な人が亡くなったこと」にショックを受ける段階です。グリーフケアのなかでも最初に訪れる段階であり、感情が鈍くなったり、何も感じなくなったり……という変化がみられます。
また、特に突然の死の場合は、死を受け入れられず、死んだことを否定する場合もあります。現実感を失い、状況の把握が難しいこともあります。
「死んだ」という現実だけは分かっても、そこから感情が動かないようになってしまうこともあります。
ただこれは、「突然のショックで、心が壊れてしまわないように」という自己防衛反応でもあるといわれています。
パニック発作が起きたり、過呼吸になったりといった症状がみられるのがこの段階です。また、ごく当たり前の日常行動ができなくなったり、混乱状態に陥ったりする段階でもあります。
2.怒り
亡くなった直後は亡くなったことを否定できていても、既読通知がつかないSNSやかけても取られない電話、家に帰ってこないことなどで、「死が動かしがたい事実であること」を見なければならない段階がやってきます。
- 「故人はもういないのだ」と知覚するこの段階は、非常に感情の振れ幅が大きい段階でもあります。
適切な治療を受けて亡くなったのであっても「医療ミスがあった」とだれかに責任を押し付けずにはいられなくなることもありますし、「どうして先に死んだのか」と故人に怒りをぶつける状況になることもあります。また「葬儀が十分でなかった」と葬儀会社などに向けられることもあります。
この「怒り」の段階は、大切な人を失った側だけでなく、大切な人を失った人を支える側にとってもつらい時間です。怒りは非常に激しい表出方法で出てくることもありますし、理不尽さを覚えるものもあるからです。
ただこれも、死を受け入れていくための重要なプロセスといえます。
なお、「怒りの段階」ではありますが、不自然に明るい振る舞いがあったり、焦燥感からの積極的な行動が見られたりするケースもあります。
「怒り」というかたちで表明される場合とは異なり、このような積極的な行動は周囲からみて「もう立ち直った、あの人は強い、さすがだ」と勘違いされがちです。そのため、こちらの方が問題は深刻化しやすいかもしれません。
3.引きこもり
怒りの後に、疲労とともにやってくるのがこの時期です。
この時期は特に内省や自責心が強く出る時期で、「あのときにこうしていたら、あの人は生きていたのではないか」「あのときあの人にもっと優しくしておけばよかった」と考え始めます。
この時期の問いかけには、答えはありません。すべてが結果論なのですが、このような考え方に囚われると、なかなか脱出ができなくなってしまいます。この時期は非常に落ち込んだ姿を見せることもあるため、この人を見守る周りの人(支える側の人)もつらい思いをすることになります。
なお、「閉じこもり(段階)」とも呼ばれます。うつ病が見られたり、人との関わりを拒絶したりするようにもなります。
4.回復期
引きこもりの段階が終わると、徐々に気持ちが落ち着いていきます。亡くなった事実を受け止め、死に向かい合い、前を向こうとしていく時期です。
なお、グリーフケアの過程は4段階もしくは5段階で説明されることが多いのですが、4段階に分ける場合は、5段階目の「再起時期」と一緒にされることが多いといえます。
5.再起
故人の死を現実として受け止めたうえで、「故人がいない世界」を生きていくことができる段階です。希望を持つことができるようになり、日常生活に対する関心も復活します。また、周りの人とも積極的に関わり合いを持てる時期でもあります。
パートナーの死によって落ち込んでいた人の場合などは、恋愛に対する関心も復活していきます。ただこの場合は、新しいパートナーを亡くなったパートナーの代わりとしていないかなどを慎重に判断していく必要があります。
「大切な人を失ったことによる、再起までの道のり」は、特に「悲しみのプロセス」「悲嘆のプロセス」と呼ばれます。また、各時期を、「Ⅰ期」「Ⅱ期」などのように数字で表すこともあります。
悲嘆のプロセスは、基本的には段階ごとに進んでいくものです。「時間薬」という言葉があるように、時間が経つに従い、徐々に気持ちは落ち着いていくことが多いでしょう。
ただ、命日が近づくと突然抑うつ感が強く出ることもあります。また、回復期に差し掛かったから大丈夫というものでもありませんし、再起に至るまで長い時間がかかることもあります。
それでも、このような過程は、人の死を受け入れ、新たに前を向いていくために必要な段階なのです。
人が死と向き合っていく過程においては、「支える側」にも相応の対応が求められます。しかし、支える側も何の心構えもないときにこのようなことが起こると、最適な対応をするのが難しいのも事実です。
自分がいざ「支える側」になったときのために、グリーフケアを扱う資格について知っておくのもよいでしょう。
【支える側】資格について
資格などなくても、グリーフケアを行うことはできます。大切な人を失った人に寄り添い、話を聞き、死を受け止める手伝いをしていくことには、資格は必要ありません。
ただ、資格取得の過程ではグリーフケアについてのさまざまなことを学べます、知識を持っていれば、より的確なサポートを行うこともできるようになります。その意味では、グリーフケアのための資格を取るのもよいでしょう。
日本では、日本グリーフケア教会が「グリーフケアアドバイザー」という資格を設定しています。3段階にわけられているもので、18歳以上から受験資格があります。
「より良いグリーフケアができるように」「いざというときのために勉強をしておきたい」という人は、このような資格に挑戦してもよいでしょう。
また、資格以外にも、「病院に行く」「病院で話を聞いてもらう」という方法もあります。そんなときの選択肢となるのが、「グリーフケア外来」です。
頼りになるグリーフケア外来とは
「死による衝撃」は、人が受けるもっとも大きなストレスのうちの一つです。
そのため、心療内科や精神科のなかには、グリーフケアの専門外来を設けているところもあります。もちろんグリーフケアアドバイザーの資格を持っている人などに相談をするのもよいのですが、グリーフケアアドバイザーの資格は民間資格にすぎません。
グリーフケア外来でも民間資格を持った人間がみることになる場合も多いのですが、病院のなかにあるグリーフケア専門外来では必要に応じて、医師の診療を受けることもできます。そのため、より精度の高いグリーフケアを必要とするのであれば、このような外来に通うとよいでしょう。
グリーフケア外来で症状が軽くならない場合は、ちゃんと医師に診てもらえるのは非常に大きなメリットです。
グリーフケア外来では、「話を聞いてもらうだけ」ということも可能です。心療内科や精神科は今や特別なものではありませんが、「それでも抵抗感がある」という人は、まずはこのようなグリーフケア外来にかかるとよいでしょう。
人の死の受け止め方に、正解はありません。また気持ちの持ちようも、人それぞれ違いがあります。
ただ、「大切な人が旅立った後の世界」をよりよく生きていくためには、グリーフケアという概念と過程が必要になることは多いといえます。
まとめ
グリーフケアとは、大切な人が亡くなったときに抱く悲しみを癒していくための過程をいいます。
これは主に、「大切な人を亡くした側」と、「大切な人を亡くした人を支える側」に分けられます。
2000年代初頭から日本でも重要視され始めたこの概念では、「死を受け入れるまでに起こる変化」「死を受けとめて回復していくまでの過程」を解説しています。
大切な人を失うと、精神面でも体調面でも日常生活の面でも大きな変化がみられます。食欲が落ちたり眠れなくなったり注意力が散漫になったりすることがその代表例ですが、過食に走ったり過度に明るく焦ったような行動を示したりする場合もあります。
このような変化は、回復に至るまで、頻度や種類は異なるものの見られるものです。
大切な人を失ったとき、人の心は5段階(4段階とすることもある)で変化します。
- ショック段階
- さまざまなものに対して怒りがわいてくる状態
- 自責感が強く出て、自分の内側に閉じこもる状態
- 回復していく段階
- 立ち直り
です。
4や5にいたるための手助けとなるのが、人と話したり、故人への思いを綴ったり、葬送儀礼を行ったり、ご遺骨を納めたりすることです。
ただこれによって余計につらくなるようならば、注意が必要です。納骨には時間的制限もないので、「まだ手放したくない」ということならば、手元供養を続けてもよいでしょう。人の死の受け止め方に、明確な「しなければならないこと」はありません。
事件や事故、災害などで大切な人を失った場合は、しばらく情報から離れることも必要です。お酒に逃げるのは危険ですが、専門医などに協力を仰ぐのもよいでしょう。現在は、グリーフケア専門の外来も開いています。また、同じ立場の人同士で話し合うのもよいものです。
支える側は、「悲しみは一通りではないし、長く続くことと考える」というスタンスであることが求められます。
またそのうえで、話をしっかり聞くこと、「前向きになるように」「この宗教にすがって楽になれた」などのアドバイスをしないようにすることが重要です。
ただ静かに、大切な人を失った人に寄り添ってあげてください。「少し明るくなってきたな」と思っても離れるのは危険です。後追い自殺の可能性も否定できないからです。
ただ、支える側にも限界がありますし、非常に重い話で手に負えなくなったり体の不調が出てきたりするようであれば、医師に相談をしましょう。
なお、「どの段階でどのような症状が出るのか」を知っておくだけで冷静に対応できるようになりますから、勉強がてら、グリーフケアアドバイザーなどの資格をとるのもよいものです。
人の死は、決して避けられるものではありません。しかしそれでも、人の死は遺された人間に大きな影響を与えます。この悲しみや影響から回復するのはなかなか難しいものですが、生きている人間は歩を進めていかなければなりません。
グリーフケアとは、そのような「遺された人」「遺された人を大切に思う人」が、前を向き、新しい人生を歩んでいくために重要なものだといえるでしょう。
監修者コメント
監修者
終活・葬送ソーシャルワーカー
吉川美津子
グリーフとは、直訳すると「悲嘆」となり、悲嘆の過程の作業を「グリーフワーク」、そこに寄り添うことを「グリーフケア」と言います。グリーフケアというと難しく聞こえますが、死と向き合っていく作業そのものを大切に暮らしていくことで自然と克服していくことができ、そういう力が本来は備わっているものだと言われています。しかし、不慮の死であったり、死という事実を受け止めきれない状況のときは、克服できずに心の病に陥ってしまうこともあります。
大切な人を亡くすと、人を責めたり、逆に自責の念に苦しめられたり、悲しみや怒りなどの感情のコントロールが難しくなります。しかしそれは正常な反応です。周囲は「いつまでも悲しんでいてはダメ」と相手の感情を抑え込んだり、「あなたより大変な状況の人がいる」と他人と比較したり、自分の体験を基準に話したりしないように注意します。また、時間が経過すると、まるで腫物に触るかのように、死の話を遠ざけようとしますが、これもNGです。大切な人を亡くした人は、その感情を押し込めずに、表出することで整理ができることもあります。周囲はしっかりと話を聞く、その姿勢がグリーフケアの大切なポイントです。
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